【生物系】博士課程から企業研究職へ – アカデミアを離れ就職を選んだ理由

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研究

こんにちは、みのん(@min0nmin0n)です。

現在は博士後期課程3年目、就職活動も終え、来年からは博士21卒としてメーカー研究職に就くことになりました。

よく言われる「アカデミア」か「企業」か、この二択で僕も悩んだ一人です。博士課程に進学する学生で、この二択で迷う方は多い事でしょう。

結果的にはこうして企業就職を選んだわけですが、博士課程への進学に迷いに迷った時と同様に、長い葛藤がありました。

企業就職が決まったことをTwitterで報告すると、以下のような質問をたくさん頂きました。

「なぜ博士課程に進学したのに、アカデミアに残らず企業就職を選んだのか?」

それだけ似た悩みを持つ方が多いということでしょう。

それに対して、ネットで調べてみても意外と企業就職を選んだ方の情報は少ないです。

そこで、同じ悩みを持つ方の参考に少しでもなればということで本記事では、僕が博士課程進学後、どのように行動し、変化し、結果的に企業就職を選んだのかを紹介していこうと思います。

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アカデミアではなく企業就職を選んだ理由

そもそも、僕が博士課程に進学した理由は主に以下の2点でした。

  • 単純に研究を続けたかった

  • 大学の先生になりたかった

この辺の詳細はこちらの記事を参考にしてください。

大学でポストを得ることの難しさ

とはいえ、やはり大学のポストを得るのはそう簡単なことではありません。

実際、先生方にお話を伺ってみると以下のような懸念点を教えて頂きました。

  • 任期付きのポジションが多く、基本的にポスドクとして数年ごとに研究先を変える必要がある
  • パーマネント(任期なし)の公募もあるにはあるが、タイミング次第で運要素が大きい
  • しかも、公募があったとしても採択される可能性は決して高くない

実際、僕の研究室の先輩を見ても、殆どの方がポスドクとして数年おきに場所を移っているのが現状でした。

その先輩方は決して能力が低いなどという訳ではなく、極めて優秀な先輩方が、です。

こうした実情を見て、大学の先生にはなりたいという気持ちはあったものの、何の考えもなしに「アカデミア」一辺倒になるのは凄く危険だな、と思うようになりました。

大学の研究は本当に「自由」か?

こうした気持ちから、本格的に企業就職を視野に入れるようになりました。

そこでまずは、大学と企業での研究の違いを比較していきました。

そもそも僕が大学の先生になりたいなと思っていたのは何となく

大学の研究=やりたいことができる

というイメージがあったからです。企業との比較をするなら、こんなイメージです。

大学:好奇心に基づいた研究。面白ければ良い。論文になれば良い。

企業:最終的にビジネスに繋げる必要がある

つまりは、大学の研究=自由、企業の研究=やりたいことができない

といった短絡的なイメージを持っていました。

ですが、当然のことですが大学でも、研究をするにはお金が必要です。そのお金は勝手に降ってくるものではありません。

ある程度は配分されてくるお金もありますが、十分に研究を行えるレベルではありません。

つまり、ちゃんと研究をするにはお金は外部から取ってくる必要があります。

「こんな凄い研究をやるから研究費をください」と何枚もの研究計画書を書かなければいけないんですね(この辺は分野によっても違うと思いますが、僕の見えている範囲のラボの多くはこの状態でした)。

学振と同じで、全員が必ず採択されるわけではありません。

しかも、大抵は3年くらいの単位でしか貰えず、その期間が終わるまでにまた別の申請書を書いてお金を取ってくる必要があります。

これはかなりの不安材料です。もし「お金が取れなくなったら」と想像すると、決して安心して研究できる状態とはいえません。

しかも、それはいずれ「お金を取るために研究」をするようになってしまうのではないか、という想像も巡らせました。

もちろん、「お金を取るための研究」をした上で自分がやりたい研究をやればいい、とも思いましたが、そこまで出来る保証はありません。

相当な実力を持っている方であれば大学は最高の環境かもしれませんが、僕にはそこまでの自信はありませんでした。

こうしたことを考えると、大学の研究は本当に自由なのか?と考えるようになりました。

逆に企業ではどうかというと、大学のように「あの研究をやろう」と思いつきで簡単に新しいテーマに取り組めるようなフットワークの軽さはないことや、

「企業では経営方針に沿ったテーマに限られるし、コロコロ変わることもある」

「業績が芳しくないときに真っ先にお金を削られるのは研究部門」

といった制約やリスクもありそうです。

ただ、僕には「絶対にこの研究がやりたい」というほどのテーマは僕にはありませんでしたし、興味がコロコロ変わるタイプです。研究費も好きなだけ使えるという程ではなく、限られた予算の中で工夫しながらやりくりしてきました。

こうした事を考えていたら、もしかすると企業での研究は意外と合っているのでは?と思うようになりました。

好きだったのは「研究」そのもの

更に自分を見つめ直してみると、僕が好きだったのは知識を蓄え、新しい関係性や課題を見つけ、仮説を立て、取り組む、という「研究における行為そのもの」でした。

こうした「研究」という行為そのものは、別に企業でも出来るものだし、それはいわゆる大学のような「基礎研究」でなくても出来るものだと思うようになりました。

なにより、

「始めは興味が持てないことでも勉強してわかってくると楽しさを見いだせる

という事にも博士課程の中で気がつき始めました。

これは

「業績が芳しくないときに真っ先にお金を削られるのは基礎研究」

という営利企業の特性を考えても、重要な素養かなと思います。

もし「基礎研究だけをずっとやり続けたい」と思っていたら、大学に残るしか選択肢はなかったかもしれません。

また、先ほど「企業では経営方針に沿ったテーマに限られるし、コロコロ変わることもある」

と書きましたが、「限られた条件の中で自分で考えて楽しさを見いだせる」点が僕の強みだと思っていたので「やっぱり企業にフィットしているのでは」と考えるようになりました。

企業での研究への興味

こうして企業就職を少しでも考えるようになってから、すぐに行動しました。

具体的には、数ヶ月に一回くらいの頻度で大学が開催してくれる就活イベントに毎回参加するようにしていました。

企業の研究者や人事の方々と定期的にやりとりして、企業の方へ向けた研究プレゼンを経験していく中で、実際に本心から企業で働くことに興味を持つようになっていきました。

初めは企業の方々に「出口が見えていないと駄目だ」「この研究をビジネスに繋げるとしたらどうする?」

こんな質問を投げかけられる度に「そんな事を考えなきゃいけないのかあ」と思いながらも、そのイベントではそういった観点が毎回求められていたので、そのギャップを無理矢理埋めるように準備していました。

こうした「ビジネスとしての出口が明確である必要があるかどうか」というのは企業と大学で大きく異なる部分なのではないでしょうか。

もちろんアカデミアにも医学や工学系の分野では論文は最終目標ではなく、応用研究で社会実装を目指している研究も多くありますが、全体を平均して見ると最も大きな差はここにあるのでは、と考えています。

そうした違いに気づき、相手の興味に合わせた発表の仕方を考えているうちにだんだんと「出口を明確にした研究」が面白いと思えるようになりました。

「大学で出口を意識した応用研究をやればいいのではないか」

という意見もあると思います。

僕もそれは考えましたが、やはり研究をビジネスに繋げることが「義務」に近い環境と、資金獲得の上で論文執筆が目的になりやすい大学の環境とでは、やはり前者の方が自然に出来ると考えました。何より、後述する金銭面での企業の優位性も重要です。

何だかんだお金は大事【精神安定剤】

「結局お金か」と思われるかもしれませんが、何だかんだお金は大事です。

奨学金を借りて過ごしていた大学院生時代から、学振DC1を頂くようになってから、気持ちの余裕が全然違いました。こうした経験からも、金銭面での企業の魅力は大きかったです。

高尚な理由を求めている方には申し訳ないのですが、やっぱり「お金の余裕から生まれる心の余裕」は凄く大きいと思います。

高確率で数年ごとにまた就活をしなくてはいけない環境で、研究を続けていくだけの勇気は僕にはありませんでした(大学を貶める気持ちは全くないです。

やっぱり環境によっては大学のフットワークの軽さ、自由さ、共同研究の幅広さは良いな、と思います)。

会社だって倒産するリスクは当然あるわけですが、気持ち的にはやっぱり大学に比べると遥かに安心感がありました。

こうして自分でも心境の変化に驚きつつもなかなか踏ん切りが尽かなかった企業就職を本当にしたいと思えるようになってきました。

加えて、「研究を続けたくて仕方がない」という思いから博士課程へと進学したわけですが、博士課程で3年間の研究延長期間を経て、ある程度の満足感みたいなモノを感じるようになりました。

プライベートの確保を意識した選択

僕は学部・院生時代に研究に没頭しすぎて体調を崩しかけました。この経験から、時間を決めて仕事を終わらせたら、プライベートに時間を使って大事にしたいタイプです。

大学は裁量労働制で、決まった労働時間がありません。

研究では効率ももちろん大事ですが、何だかんだ長く時間を掛けた方が業績を出せる場合が多いです。

その意味で、好きなだけ研究に没頭できる、という意味では天国のような環境かもしれませんが、僕のようなプライベートを大事にするタイプでは、プライベートを厭わない方が居た場合に、とても競争に勝てないでしょう。

そうした競争に勝てないことによる心理的な余裕の欠如は更にプライベートにも影響を及ぼし、それが更に研究に悪影響を及ぼす、という悪循環が起こることを予想していました。

そう考えると、大学の裁量労働制は僕にとっては必ずしも良いことではありませんでした。

逆に、特に大企業では最近労働時間にもの凄く厳しいです。

残念ながら、多くの企業では「残業時間を減らすこと」自体が目的になっており、単に労働時間を無理矢理減らしただけで、しわ寄せが他で来るという事があるようですが、長時間ダラダラと仕事をすることと比べると、個人的に良い風潮です。

ある意味「強制的に帰らざるを得ない」環境です。

こうした環境に身を置くことで、「時間内に効率良く仕事を終わらせるにはどうするか」という博士課程でずっと考え続けてきた力を発揮できますし、それが仕事にもプライベートにも好循環を生むと考えていました。

僕は結婚して、仕事もしながら家族も大事にしたい、という気持ちがあったので、これは凄く重要な観点でした。

企業就職を考えるなら早めの行動を

博士就職で実感したのは「企業の就活」と学振等の「移動先に依存しない資金獲得」の時期が丸被りで「企業」と「大学」の両方を視野に入れるのが難しい事。学振に全振りするのはリスクが高すぎるし、研究もしながら両方に手を出すのは負担が大きすぎる。博士後の進路は早めに決めておくのがマストかも。

今回はあくまで「企業就職を選んだ理由」のみに触れました。就職活動がすんなりいったかと言われると、やっぱりそれなりに大変でした。

最近でこそ製薬企業や化学メーカーを中心に博士学生を積極的に採用し始めましたが、その他の分野ではやはりまだまだです。

なにより、アカデミアに進む上で重要になってくる学振の申請時期と、企業の就活時期は現状丸かぶりです。直前になって、慌てて考えていては、どちらも上手くいかない可能性が大きいです。

もし就職を考えている方であれば、博士だから研究のみに没頭すればいい、と油断せずコツコツ就活はやっておくべきです。

このあたりの生物系博士の就活の方法論については、また次の記事でまとめます。

おわりに

「アカデミアか企業か」

長い葛藤がありましたが、最後にはこうして企業就職を決め、今はすごくすっきりしています。

とはいえ、実は、ちょっとはまだ大学の先生にはなりたいという憧れに近い気持ちもあります。

プライベートも含め、色々な要因を考慮した結果、現状で企業就職が良いと思ったわけですが、「大学の先生になりたい」という未練はやっぱりあります。

だからこそ、学部生や修士の学生の中で「大学の先生になりたい!」と研究に打ち込んでいる姿を見ると「いいなあ」と思う事もあります。僕は一度諦めた道ですので、そうした方の姿を見ると少し羨ましくもなると同時に応援したくもなります。

だからこそ、生物系の博士課程学生がアカデミアから離れ、企業研究職を選んだ理由という事で今回の記事を書かせて頂きました。将来の選択に悩む方々の助けになることを願っています。

Twitterではみのん(@min0nmin0n)という名前で研究に関するツイートをしています。

おかげさまでフォロワーが1万1千人を超えました。これからもこうした情報を発信していくので、フォローして頂けると嬉しいです。

コメント

  1. gyo-za より:

    貴重な記録をありがとうございました.
    この春から任期のない職に就いた大学教員です.分野は情報系です.
    博士取得後に8年間,それぞれ2年,2年,4年の任期付きの仕事をしてきました.
    いずれも任期切れのタイミングで次の職に就いています.
    博士取得直後に結婚し,その後に子供も生まれたため,次の職が見つからないかもしれないプレッシャーは相当でした.

    博士進学の際も,任期付きの際も,常に企業就職と迷いながら今に至っています.
    企業への就職についても調べてきましたが,結局「働いてみないと分からないデメリット」にリスクを感じて,メリットとデメリットが見えやすいアカデミアに進んできた感じです.
    アカデミアと企業の行き来がもう少しスムーズであれば,両方試して合う方を続けるということもできますが,企業→アカデミアは若いうちは特に難しい(例が少ない)ので,アカデミアに戻りにくいことも企業就職への障壁でした.

    制約の中で成果を出すことの楽しさや,プライベートと仕事を切り分けやすい話などは,自分も企業に就職することのメリットとして感じていたため,この記事に大変共感しました.
    自分は今後も,何かの機会に企業に転職を考えることがある気がします.
    その際にはこの記事に再度目を通したいと思います.

    • minon より:

      大変嬉しい丁寧なコメントどうもありがとうございます。
      本当に仰る通りで企業とアカデミアの流動性がもっと高ければ色々な選択肢を自由に選べるのになあ、と思います。
      博士にとって、企業かアカデミアかという選択はだれもが通る道かもしれませんね。
      僕はファーストキャリアを企業という選択肢を選びましたが、僕の友人もgyo-zaさんと同様に大学の道を選びました。
      どちらが正解ということはなく、各々が選んだ道で活躍して、その道が正解だったと胸を張って言えるようにしたいものです。

      最後になりますが、パーマネント職への着任、本当におめでとうございました!!!ご活躍を祈っております。
      またこの記事を見にくるかもしれない、とのことですが、僕が企業で働き始めてから「博士の活きる道」みたいな部分をきっちり示せるといいな、と思っています。
      そうした部分もこれから記事にしていく予定ですので、もしgyo-zaさんが再度この記事に訪れる際には、もっとボリュームアップしているように頑張ろうと思います。